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太平記

中堂新常灯消事
其比都鄙の間に、希代の不思議共多かりけり、山門の根本中堂の内陣へ、山鳩一番飛来て、新常灯の油錠の中に飛入て、ふためきける間、灯明忽に消にけり、此山鳩堂中の闇さに、行方に迷ふて、仏壇の上に翅お低て居たりける処に、承塵の方より、其色朱お指たる如くなる、鼠狼(いたち)一つ走り出て、此鳩お二つながら食殺てぞ失にけり、