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嬉遊笑覧
十一/乞子
仲間六部、下手談義に、年中江戸に住居しながら、日本回国とまか〳〵しき顔つき、是お仲間六部といふ、昔はかやうのものお、鳩のかひ(○○○○)といへり、〈○中略〉浮世ばなし、〈完文十年板〉鳩の戒とありて、鳩は鶯の巣およく作るお見て、それお学て巣お作れども、木の枝などお組て、その上に卵おうむ故、枝の間おもれて砕く、それ故物ごと心得がほにふるまふものお、鳩の戒といへり、〈浮世物語見合べし〉浮世物語、〈二〉京にも田舎にも鳩の戒と雲もの有て、万のことの間お合せ、さながら其根に入たることは、ひとつもなけれども、又しらぬ事もなし、あれ是に成りかへ〳〵、うそおつきて世お渡る、是お鳩の戒と名付る事、鳩は人里近くすむものにて雲々、鶯の巣おならひて作らむと、作りやうお見るに、はゝき竹きれ柴の類お下にしき、そめ上に巣おかくる、それまでも見とゞけず、もはや心得たりと思ひ、木の枝に柴の折四五本お渡し、其上に木葉おしきて卵おうむに柴のあひだよりもれ落て打くだく、口伝も師伝もうけずして、隻見及び聞及びたるに任せて、根に入らぬわざどもお、しらぬことなく覚がほなるは、鳩の巣にたとへたり、又秋になれば、鳩すなはち鷹となりて、鷹のまねするものなれば、時に随ひ折によりて色々になりかはり、世お渡る業おいたし、人おへつらひだますものお、鳩の戒とは申すとなり、