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玉勝間

にふなひ(○○○○)といふ雀
尾張国人のいはく、尾張美濃などに、秋のころ、田面へ廿三十ばかりづゝ、いくむれもむれ来つゝ、稲おはむ、にふなひといふ小鳥あり、すゞめの一くさにて、よのつねの雀よりは、すこしちひさくて、觜の下に、いさゝか白き毛あり、百姓はこれおいたくにくみて、又にふなひめが来つるはとて、見つくればおひやる也、此すゞめ春夏のほどは、あし原に在て、よしはらすゞめ(○○○○○○○)ともいふといへり、のりながこれお聞て思ふに、入内雀(にふないすヾめ)といふ名、実方の中将のふる事にいへる、中昔の書に見えたり、されどそれは附会説にて、にふなひは、新嘗(にひなへ)といふことなるべし、新稲(にひしね)お、人より先きに、まづはむおもて、しか名づけたるなるべし、万葉の東歌にも、新嘗おにふなみといへり、又おもふに、稲負鳥(いなておほせどり)といふも、もし此にふなひの事にはあらざるにや、古き歌どもによめる、いなおほせ鳥のやう、よくこれにかなひて聞ゆること多し、雀はかしかましく鳴物也、庭たゝきは、かなへりとも聞えず、