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甲子夜話
三十
燕の巣にさま〴〵あり、江都は鴨居又は梁などに、状指の如き形に、泥土おもて造る、又小板お棚として置ば、それに巣くふ、諸国も大率この如し、その中奇なるは、備後の鞆浦にて見たり、彼処に大なる神祠あり、その軒のうらに、垂木或はつか梁等に所々巣あり、其形壼の如し、入口は向の方又は上の方にあるも有り、その状翳螉の居に類す、垂木にある者は、その形乳房の如し、下方に口あり最奇なり、又筑前の民家にありしは、方板五寸計なるに、四隅に縄おつけて屋中につり置く、其中に巣くふ、形竃の如し、又藁づとの小なる六七寸なるおるり設く、これもその中に巣くふ、かく土風によつて別異なるも奇なり、又聞備中吉備津宮の燕巣も壼の如く、祠の軒うらに多しと、又同国足守辺の人雲ふ、燕にひうごと雲一種ありと、然ればかの異形の巣はひうごの巣なるか、〈余錄〉