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西遊記

一足鳥(○○○)
肥後の国八つ代の求麻川おさかのぼる事八里にして、神(かう)の瀬(せ)の岩戸といふ所あり、天下の奇所なり、〈○中略〉南向にて高さ広さともに十四五間ばかりもや有らん、上よりは石鐘乳の甚大にして柱の如く、或は人の如くなるが、つらゝの下りたるやうに、口より奥に至るまで、透間なく下れり、其石鐘乳の間に鳥有りて飛ありく、背中黒く腹白く尾みじかく、全体燕に似たり、此鳥隻一足なり、世界の中に、隻此岩戸の中ばかりに生ずる鳥なりといふ、奥より口にいたるまで数百羽むらがり飛て、程近くまでも飛下る、されど甚すみやかにして、いかなる形としかと見定めがたし、