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塵袋

一伯労鳥とは何鳥ぞ
打任てはもずと雲ふとり也、万葉にもずのくさぐきみえずとも雲ふ、歌には伯労鳥とかきて、もずとよませたり、鄭玄が礼注には、鵙(もす)は博労鳥也と雲へり、百労鳥とかける事もあり、百舌鳥とも反舌鳥とも雲ふ、兼名苑には、服鳥一名は伯趙、一名は鷭博労也、其生れて長大して便反て食其母、一名は梟、不孝鳥なり、尹吉甫前婦子伯奇、為後母所讒、遂身投律河、其霊為惡鳥、今伯労鳥之と雲へり、此説の如くならば、ふくろうと雲ふとりにこそ、両説の是非ばかりがたし、梟は食母とり、破鏡は父おくらふ獣とて、一双の物也、賈宣〓鳥賦雲、〓似鴞不群鳥也雲雲、同注雲、異物志お引て雲、有鳥小如(して)鶏、体有(に)文色、土俗因形名曰〓と雲へり、つねのふくろうにはいつか文色ある、又にはとりにもにず、別の鳥歟、又不能遠飛行と雲へり、思玄賦雲、鶙鴃鳴而不芳、向注雲、鶙鴃之鳲使衣草不芳、又雲、鶙鴃陰(は)鳥則(なり)草木凋木凋傷雲々、衡曰、鶙鴃鳥名(はの)也、秋分鳴(に)、服虔曰、鶙鴃一名鶪伯労也、異名志曰、鶙鴃一(の)名杜(は)鵑、至三月鳴、尽夜不(に)止雲々、これ大に相違せり、伯労も鶙鴃も大様はもず也、ほとヽぎす三月になくことは、なお早速なるか、漢地はあたヽかなるゆへにとくなく歟、礼記月令には、五月鶪始て鳴と雲へり、草木しぼむと雲ふ時節にしたがひぬ、打任て此の辺には、もずは秋ふかくなりてなくものなり、夏なくことはなきにや、かた〳〵にしたひあへり、東方朔が内伝の心には、東方朔弟子とともに長安のみちおゆくとき、水おもとむ、弟子人家のすもヽの木に伯労鳥とびあつまる、東方朔これお見て雲く、此の家の主おば、李労と雲ふ也と、弟子その名およぶに、家主いでヽほめけりと一雲ふ事あり、李木に伯労きたれば、李労とこヽろえたりけるか、たがはざりけるこそ不思議なれ、ひるふくろふの木にあつまるべきいはれなければ、こヽに雲へる伯労はもず歟、