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茅窻漫錄
鸎字並百舌百千鳥
百舌もずにもあらず、又うぐひすにもあらず、是も一種の鳥なり、漢土の書に多く載せたり、易通卦験雲、反舌鳥百舌鳥、能反覆其舌、証百鳥之音、淮南子〈説山訓〉人有多言者、猶百舌之声、格物総論雲、百舌春二三月鳴、至五月無声、亦候禽也、山堂四考雲、百舌一名、望春、一名喚起、江南之人謂之喚春、声円転如絡糸、〈喚起の事後に見ゆ、同名お以て誤る、〉其外益都方物記に、一名翠碧鳥ともいひ、事物異名に饒舌郎といふも能く諸鳥の真似おする故なり、文同が詩に、就中百舌最無謂、満口学尽衆鳥声、自無一語出於己、徒爾嘲音誇縦横といふも、其真似お惡みてなり、〈王維が聴百舌鳥詩に、入春解作千般語、払曙能先百鳥諦、唐詩紀事に見ゆ、〉然るお和名抄に、鵙の一名伯労とし、百舌鳥とする、〈鸎の一名黄伯労〉古昔よりの誤お承け伝へ、枕草子に鸎の関と書きたるお、季吟の春曙抄に、百舌鳥陵と注せしは、次第に誤り来れり、鷁は爾雅に雲、雉鶀郭注に、俗呼為痴鳥といへるもの、鄭漈が草木略に、按此似鸜鵒無冠而長尾、多在山寺厨濫間、今謂之鳥〓、と是なり、此鳥の癖として、最初の発声に何となく諸鳥の真似おする中に、うぐひすの真似お能くする故に、彼此と誤りきたれり、