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大和物語

よしみねのむねさだの少将、ものへゆく道に、五条わたりにて雨いたうふりければ、あれたるかどに立かくれて見いるれば、〈○中略〉ことひとなど見えず、あゆみ入てみれば、はしのまに梅いとおかしう咲たり、鶯もなく、人有ともみえぬみすの内より、うすいろのきぬ、こききぬのうへにきて、たけたちいとよきほどなる人の、かみたけばかりならんとみゆなる、
よもぎおひてあれたるやどお鶯のひとくとなくやたれとかまたむ、とひとりごつ、少将、
きたれどもいひしなれねばうぐひすの君につげよとおしへてぞなく、とこえおかしうていへば、女おどろきて、人もなしと思ひつるに、物しきさまおみえぬる事と思ひて、物もいはずなりぬ、