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大鏡

この天暦〈○村上〉の御時に、清凉殿の御前の梅の木の枯たりしかば、もとめさせ給ひしに、なにのぬしのくらびとにていますかりしときうけ給はりて、わかきものどもはえ見しらじ、きんぢもとめよとの給しかば、ひと京まかりありきしかども侍らざりしに、西の京のそこ〳〵なる家に、色こくさきたる木のやうだいうつくしきが侍りしおほりとりしかば、家あるじの、木にこれゆひつけ候てもてまいれといはせたまひしかば、あるやうはこそはとて、もてまいりて候しお、なにぞとて御らんじければ、女の手にてかきて侍りける、
勅なればいともかしこしうぐひすのやどはととはゞいかゞこたへむ、とありけるに、あやしくおぼしめされて、なにものゝ家ぞとたづねさせ給ければ、づらゆきのぬしのみむすめのすむ所なりけり、遺恨のわざおもしたりけるかなとて、あまへおはしましける、〈○又見拾遺和歌集九〉