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孝道故事要略

鶯声お学ぶ孝子の事
江州湖水の辺に鶯の某と雲者あり、此者平生黄鳥の囀具似せり、故によんで名とす、彼が志お聞こそ哀にも亦奇特なり、母は先ち独の父おなん養へり、其身家貧して朝三暮四の煙も時お失ひ、炭薪やうの物お売て渡世の営とす、〈○中略〉昔日家富ける時より、其父鶯お愛して飼けり、今家乏けれども、鶯お求て世業無間身なれども、餌なんど用意して、鶯おそだてヽ父おなぐさめけり、猶又其身常に鶯の囀お学て、折々囀て父に聞せける、〈○中略〉父死して後は曾て鶯声お不囀、世人挙て望めども不言、終自削髪父の墓の上に廬してけると、湖水漫錄に見へたり、