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枕草子

鳥は
鶯はふみなどにもめでたき物につくり、声よりはじめて、さまかたちもさばかりあてにうつくしきほどよりは、こゝのへのうちになかぬぞいとわろき、人のさなんあるといひしお、さしもあらじと思ひしに、十とせばかりさぶらひてきゝしに、まことにさらにおともせざりき、さるは竹もちかく、こうばいもいとよくかよひぬべきたよりなりかし、まかでゝきけば、あやしきいへの見どころもなき梅などには花やかにぞ鳴、夜るなかぬもいぎたなきこちゝすれども、いまはいかゞせん、夏秋の末までおひごえになきて、むしくひなどようもあらぬものは、名おつけかへていふぞくちおしくすごきこゝちする、それもすゞめなどやうに、つねにあるとりならば、さもおぼゆまじばるなくゆえこそはあらめ、としたちかへるなどおかしき、ことに歌にもふみにもつくるなるは、なほ春のうちならましかば、いかにおかしからまし、人おも人げなう、世のおぼえあなづらはしうなりそめにたるおばそしりやはする、とびからすなどの上は、見いれきゝいれなどする人、世になしかし、さればいみじかるべきものとなりたればとおもふに、心ゆかぬこゝちする也、まつりのかへさ見るとて、うりんいん知足院などのまへに車おたてたれば、郭公もしのばぬにやあらんなくに、いとようまねびにせて、木だかき木どもの中に、もろごえになきたるこそさすがにおかしけれ、