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壒囊抄

おほおそ鳥とは何なる鳥ぞ烏お東には大おそ鳥と曰、烏は物食にきたなければ、大膩鳥と申侍り、されば万葉の東歌曰、〈○歌在上〉まさでにもとは正(まさしく)もと曰也、てと、とおば万づの詞に加ふる也、ころくとは東詞也、こは来雲(こよと)心也、ろくは詞の助け也、耳(すらくのみ)なんど曰類也、万づの詞、終にろお加と雲り、人の子おころとよみ、山の根お子ろと読り、仍烏のこか〳〵と鳴お、ころく鳴と雲也、おそは黒(きたなし)と雲詞也、されば日本紀にも、似烏食糞と書き侍り、又万葉の浦島が歌にも、きたなしと雲おおそやとよめり、〈○中略〉文にも烏おば貪鳥、又は烏合之群なんど雲て、鳥の中には心貪欲に、凡そ非常なる物に申習はし侍る也、又大黒鳥共書り、黒の字おもきたなしとよむ、今は黒き義には非ざる也、