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慶長見聞集

法林寺説法お烏きく事
江戸法林寺上人の談義殊勝のよし、其聞え有りしかば、諸宗共に参詣す、上人高座にあがり説法して雲く、本来の面目と雲は、即身即仏にして外に仏なし、不立文字にして経意お用ひず、以心伝心に有り、願くは今仏出世ならば、此法林寺一不審かけんに、中々一答もおよぶべからずと放言し給ふ、折節庭の樹のとまりがらす、俄にかしましく鳴出す、上人の此説法お鳴けす所に、上人扠もにくき烏めかな、説法ものべられぬとの給ふ座中にて一人声高に、いや烏がわらふよと雲ければ、聴衆聞て一同に実にもからすがわらふよ鳴よと雲ひやまず、坐中さわぎどうよふする、