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甲子夜話
二十三
封内平戸の中に安満岳と雲る森山あり、山上に神祠あり、久く霊場と称す、又寺院あり、頗大寺なり、密樹屋お摎る、後山に双雅棲めり、予○松浦清も登山のときこれお視るに、翅下に一円白あり、又寺前に一盤お設く、日々神供の食お盤上に置けば、雅食して残すことなし、従来この如しと雲、この雅たヾ一双にして余雅の混ぜず、又蕃生せずして、年々産するもの雌雄のみにして、其余あることなし、年毎に父烏雛の成長お待て、十月廿日お以て必ず去る、その夜月出の前に悲鳴良久く別お惜むの状あり、而遠く飛去る、歳日違ふことなし、父雅これよりして黒髪山に往て棲むと雲、霊奇とも雲べきことなり、