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田舎荘子

鷺烏巧拙
鷺と烏と遊ぶ、烏の雲、〈○中略〉我は人家に凶事あれば、往て未然に告しらしむ、然るに人々奇特也とはいはずして、却てからすなきがあしきなどいふて、我お不祥の物として忌嫌ふ、是ほど心得ぬ事はなしと雲、鷺の雲、女人に凶お告るとて、恩に著するも、人の烏なきがあしきとていやがるも、共に非也、然れ共其徳なく其実なくして、人お正し、人の非お告る時は、聞く者信ぜず、却て我おそしれりとして、忌嫌ふは人の情也、女の常おみるに、鼠おとらんとて、人家の屋根おむしり、畑に蒔付植付たる物おつゝきあらし、人の秘蔵する樹木の菓おぬすみ何なり共人の乾しておく物お、遠慮もなくとり喰て、人ににくまるゝ事のみ也、其なく声さへ、余鳥よりもやかましく、人のいやがるは猶也、女の人に凶お告るといふも、其徳あり其実有て告るにはあらず、雨気に感じて青蛙の鳴がごとし、女の諦故に凶事の来るにもあらず、隻女不祥の気ある故に、人家に不祥の事あれば、女必ず其気に感じて其所へ集り諦のみ也、是同声相応じ、同気相求るものなり、何ぞ是お以て人に恩有とせんや、〈○下略〉