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続世継
十/敷島の打聞
菩提樹院といふ寺に、ある僧房のいけのはちすに、鳥の子おうみたりけるおとりて、籠にいれてかひけるほどに、うぐひすのこより入て、ものくゝめなどしければ、うぐひすのこなりけりとしりにけれど、子はおほきにて、おやにもにざりければ、あやしくおもひけるほどに、子のやう〳〵おとなしくなりて、ほとゝぎすとなきければ、むかしよりいひつたへたるふるきこと、まことなりと思ひて、ある人よめる、
親のおやぞいまはゆかしき郭公はや鶯のこは子也けり、とよめりける、万葉集の長歌に、うぐひすの、かひこの中の、ほとゝぎすなどいひて、このことに侍なるお、いとけふあることにも侍なるかな、蔵人実兼ときこえし人の、匡房の中納言の物がたり〈○江談抄〉にかける文にも、中ごろの人、このことみあらはしたることなど、かきて侍とかや、かやうにこそつたへきくことにて侍お、まぢかくかゝることにて侍らんこそ、いとやさしく侍なれ、右京権大夫頼政といひて、歌よめる人のさることありときゝて、わざおたづねきて、その鳥の籠にむすびつけられ侍けるうた、
鶯のこになりにける時鳥いづれのねにかなかんとすらん、万葉集には、ちゝににてもなかず、はゝににてもなかずと侍なれば、うぐひすとはなかずや有けんなど、いとやさしくこそ申めりしか、