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醒睡笑

貴人之行跡
河内の国に交野といふ所あり、かた野の御狩とかけるこれなり、彼領主に大塚彦兵衛とかやいふて、あたりまで崇敬の人ありき、宗祗と入魂他にことなり、卯月のはじめつかた、祗公たちより給ひ休息のほどありし、いろ〳〵風流の物語に時うつりて、なにと祗公はいまだ郭公のはつ音おば聞給はぬや、いな夢にだもおとづれずとあり、大塚さらばわれ発句お仕なかせんとて、
なけやなけわが領内の郭公とあれば、祗公の脇に、
孫子おつれてなけ時鳥、第三おする人なし、迚の事にさた候へとあれば、又祗公、
とにかくに御意にしたがへ郭公、時にあたり人の心おやぶらんは、興さめて見えぬべし、祗公のあいさついたされるかな、