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筆のすさび

一鳥の群 完政八九年の頃なりしや、嵯峨野に蠟觜鳥(ろふしてう)多く集り、木毎にむれいること、一樹百二百羽にくだらず、山多く樹茂りたる処なれば、いづくお見ても、此鳥ならぬ所もなかりしかば、京より見に行く人多くて、茶酒の店などもこゝかしこに設くるほどの事なりしよし、六如上人より告知らせらる、其より四五年も後なりしや、吾郷備後神辺(かんのへ)に、うそ鳥多く来り、予〈○菅茶山〉が庭の樹竹軒ちかき枝まで、この鳥ならぬ処もなかりし、かの蠟觜鳥も、その年の前後に、常より多かりし事もなかりしとなり、予が郷里のうそ鳥もしかり、山中雪ふりければ、鳥多く里に出るといへども、其歳わきて雪多くもあらざりし、さらば此鳥のみ多くもあらざるべきに、