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田舎荘子

鵯鷯得失
鵯小鳥共おあつめて謂て雲、女等畑の作物につき、又は庭の菓お喰ふに、いらざる高ごえおして、友お呼びさわぐによりて、人其来り集るお知て、網お張り黏お置也、我冬になり山に食物なき時は、人家に来りて椽先にある南天の実お喰へ共、亭主知る事なし、あまりおかしさに、立ざまに大きな声おして、礼おいふてかへる也、万一黏にかゝりても、少しもさわがず身おすくめて、そつとあおのけになりてぶらさがり居れば、はこは上に残り、身ばかり下に落時、こそ〳〵と飛でゆく也、女等は黏にかゝりたる時、あはてさわぎはためく故に、総身に黏おぬり付て、動くこともならずしてとらへらるゝ、不調法の至り也と、才智がましく語る、末座より鷦鷯といふ小鳥笑て雲、人は鳥よりもかしこくて、一たび此手にあひたる者は、下にも細きはごお置き、例の如くぶらさがりて下へ落れば、下なるはごおせなかに付、おもひよらぬ事なれば、さすがの鵯殿もあはて懆ぎ給ふ故に、総身に黏お塗りてとらへらるゝ事は同じ事也、