[p.0902][p.0903]
飼鳥必用

類違十姉妹
此鳥天明年中に、紅毛人日本渡海の節、本かたら国に在し内、知る人の方より何鳥とも不知、小さ成雛鳥お送りし故に、其儘長崎に持渡り、漸々と塒に掛り、古今無類の麗羽お出したり、猶十姉妹程にて、頭より脊迄綠青にこんじやうお引たる色合也、胸より腹は朱のごとし、觜は黒く常の鳥よりも尾羽長く柳葉尾にて、画工のさいしきにも不及、色合よく、此鳥薩州江相廻り、夫より江都江廻りたる節、和唐之諸鳥の曾有、これお出す、出会の人々皆々目お驚かし、則其日壱番に付、古今無双と書いだしたる也、今老の鳥にて無程相落、其後此鳥見たる事なし、暫も飼とめしならば、巣組に入子お取べきにおしき事也、未此正写の噂計而巳、残念なりし事也、〈○中略〉
十姉妹
此鳥類先年より沢山長崎江相渡、子お取事心安相成、巣組生立方、世の人能くしりし事ながら、あらましは書置也、檀どくと十姉妹の掛合にて出来たるは、檀どくの方へ近くといへども、胸の白黒能くわからず、大目にだんどくとは見得候得共、委しく見れば掛合の府合相わかり申候、巣は蘆ふごにて巣草お入、就中しろの毛お能く望むもの也、玉子産落し、巣に入候日より十三日目に玉子開割、己と生立、春秋二腹宛生立、近年余り沢山に生立候故、人是お不愛、此後に至、子又無多事可相成候間、鳥数寄の方心掛、無油断生立置べく心得可有也、