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続近世奇人伝

高戸善七
備中国鴨方村に、高戸善七郎後に孫兵衛といへるは、父に仕ふること極て孝也、〈○中略〉老後人の飼たる山雀の翅お殺たるお憐み、乞得て愛養し、翅長ずるに及び、籠お開きて去しめんとするにさらず、程なく翁京へのぼらんとて、家より一里計出たる、竹輿のうちにて頓死しければ、家にかへしてとかく事おはかる間、彼山雀お其家の東一丁計ある親族のもとへうつしたるに、翁の死おや知けん、籠お破りて飛去ぬ、さて葬儀など終りて後、妻子翁の墓にまうでゝみれば、彼鳥そこにあり、此墓所は翁の家より西にて、うつしたる家よりは五丁計もあらんに、いかにしりて来りしにかと、人々いやしみて、例のごとく手お動して試れば、手につきて舞鳴ぬ、いと悲しうてつれかへらんとしたれど、やがて又空に飛さりぬとぞ、