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古今著聞集
二十/魚虫禽獣
摂津国岐志庄に、一丈あまりばかりなる蛇の耳おひたる、時々出現して人おなやましけり、見あふもの必やみければ、此蛇出たると聞ては、村人門戸おとぢてにげかくれける程に、同住人左近将〓なにがしとかやいふなるおのこ、くまだか(○○○○)お養けり、ある日此蛇いでたりけるに、れいのことなれば、里人かくれまよひけるに、蛇くまだかに目おかけてはひ行、くまだかもまた身おほそめ、毛おひきて、蛇に目おかけてありけるほどに、しばしばかりありて、此蛇くまだかのおりのもとにすでに近付ぬ、件のおりはほそき木おつちに打立て有物にて侍るお、此蛇おりのはざまよりかしらおさし入てのまんとするお、くまだか蛇の頭より下五六寸計おさげて、むずとつかみてげり、つよくつかまれて、蛇おりおひし〳〵とまきけるが、次第につよくまかれて、おりの屋のうへやぶれて一所へとりよせたるやうになりにけり、しもはつちに打入たればはたらかず。其時くまだか蛇のくびおくいきりにければ、まとひつるもとけにけり、それより蛇うせて人なやむ事なくなりて、村里のよろこびにてぞありける、