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甲子夜話
二十三
了円翁外山家に居りしときの事とよ、縉紳某卿、筆道お好み習学怠りなかりしに、其軒前の庭樹に鷹巣お結ぶことあり、卿これお喜て、園丁に命じて巣に妨あることお戒む、数日の後、雛や育し親鳥と共に飛去り、復来ることなし、卿の雲く、鷹巣には必ず名器お置と、さだめて此中に有べしとて、人おして視せしむるに、果て一軸お遺す、乃取て見るに、卿嘗所筆の手帖なり、卿大に駭き且これお好し、取て以て家蔵とす、今其家これお伝へて鷹巣帖と名づけて、子孫襲宝すと雲、