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今昔物語
二十
天狗現仏座木末語第三
今昔、延喜の天皇の御代に、五条の道祖神の在ます所、大きなる不成ぬ柿の木有けり、其柿の木の上に俄に仏見はれ給ふ事有けり、〈○中略〉大臣〈○源光〉頗る恠しく思え給ひければ、仏に向た目おも不瞬ずして、一時許り守り給ひければ、此仏暫くこそ光お放ち花お降しなど有けれ、強に守る時に詫て、忽に大きなる屎鵄の翼折たるに成て、木の上より土に落ためくお、多の人此れお見て奇異也と思けり、小童部寄て彼の屎鵄おば打殺してけり、大臣は然ればこそ実の仏は、何の故に俄に木の末には現はれ可給きぞ、人の此れお不悟して、日来礼に喤るが愚なる也と雲て返り給ひにけり、