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太平記
十六
本間孫四郎遠矢事
新田足利相挑て未戦処に、本間孫四郎重氏、黄瓦毛なる馬の太く逞きに、紅下濃の鎧著て、隻一騎和田の御崎の波打際に馬打寄せて、〈○中略〉上差の流鏑矢お抜て、羽の少し広がりけるお鞍の前輪に当て、かき直し、二所藤の弓の握太なるに取副、小松陰に馬お打寄て、浪の上なる鵃(みさご)の己が影にて魚お驚し、飛さがる程おぞ待たりける、〈○中略〉遥に高く飛挙りたる鵃、浪の上に落さがりて、二尺計なる魚お、主人のひれお〓て奥の方へ飛行ける処お、本間小松原の中より馬お懸出し、追様に成て、かけ鳥にぞ射たりける、態と生ながら射て落さんと、片羽がひお射切て直中おば射ざりける間、鏑は鳴響て大内介が舟の帆柱に立、みなごは魚お〓ながら、大友が舟の屋形の上へぞ落たりける、