[p.0968][p.0969]
万葉考
別記一
呼児鳥
この鳥は集にもはら春夏よめり、そが中に巻十二に坂上郎女の、世の常に聞ば苦しき喚子鳥音なつかしき時には成ぬ、とよめるは、三月一日佐保の宅にてよめるとしるしつ、げに山の木ずえやうやう青みだち、霞のけはひもたゞならぬに、これが物ふかく鳴たるは、なつかしくもあはれにもものに似ずおぼゆ、それより五月雨るゝ頃までも、ことにあはれと聞ゆめり、さて鳴こえものおよぶに似たれば、よぶこ鳥といひ、又其こえかほう〳〵と聞ゆれば、集には容鳥(かほ /○○)ともよみたり、い中人のかつぽうどり(○○○○○○)といふ、即これ也、かんこどり(○○○○○)てふも喚子烏のよこなはり言也、同じ鳥おさま〴〵に名づくるは常の事ぞ、此鳥万葉に多く出て、何の疑もなきに、後の世人は、古今歌集の一つお守りて、ひがごといふめり、こはいづこの山方にもあれど、下つふさの国にては、何とかや薬にすとて、とれるお見しに、凡は鳩ににて、かしらより尾かけてうす黒也、はらは白きにいさゝか赤き気有て、すゞみ鷹のはらざまなるかた有、くちばしは鳩のごとくして、少しく長くうす黒し、足はうす赤にて、はとよりも高し、