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飼鳥必用

孔雀
紅毛渡古来より日本の庭籠にて生立能く、産巣まれにて、親鳥宜敷は玉子拾お余りも落、皆ともかへり候故、世にのぞみなき程にも生立候得ば、能親鳥お持候人は、生立方は不功者、又功ある人は親鳥お不持、春より夏迄は雛も諸所に相見得候得共、寒お越し翌春迄に過半相落、又は足に難有り、玉子庭鳥に暖させ候得ば、日数三十日にてかへる也、其節生方すり餌にて五分餌、棒ふり虫お入、けら虫にて飼立水お不用、青菜刻み飼候て双の羽お切り、泊木お下たに付置、弐歳迄は乳母鳥お不放候事、第一の覚也、総而遊び所広く相拵へ、折角日当宜敷致吟味、高き泊り木へ上り下り候得者、足の節等痛段々はこび惡敷也、ついには落鳥に相成事多、依之寒中は庭籠之内へ蒹お張り、暖なる方に取仕立、雛の内は下地〈江〉籾糠、又は切わら等お敷候事都而不宜、足かわきて指ひまがり候ゆへ、土地おやわらかに取拵へ差置候事宜敷、総体孔雀は唐方の方、紅毛出と同様にて、二通り有之、紅毛巣生は足長く身なり長手にて、ぶとふに見へず、唐方は鳥の足少し短く小形にて、ぶとふに見へる不宜、雛の内弐才迄は水お呑せる事無用なり、初而水相用候日は四五口も呑せ水入お引、翌日二度も呑せ、三日目には三度計呑せ、十日計の間付添水お相用、夫より庭籠へ水日日宜敷、自然ふんゆるみ毛冠乱れ候はゞ、随分入念薬飼等可致事、粒餌に籾お少し宛飼候得ばよろしく、餌押張り糞に気お入、堅まり候はゞ、兼而ぼれい飼置べし、猶糞にかたまり白油の付候方、鳥の勢い宜と相心得、兎角余鳥と替り十分の肉には上りかね候、平生けら虫いなご等飼置、肉上り兼候はゞ、雀の生肉鷹に飼候様に刻み、日々三度計相用宜、勿論寒中には虫も取得兼候故、三日越に雀お飼候へば元気宜敷方に飼置事、世の人不知所也、可秘也、餌にも火取雀お常に鯊の粉に交相用候得ばよし、夕方にはかならず高き所〈江〉泊度飛上り候ゆへ、気お付、右様無之よふに羽お切り候事、東都小川町辺倉橋何某と申御旗本衆、多年孔雀お被相生立候に付功者にて、冬中長持に入臥せ被申、快晴の時分は庭の内放し、曇日には籠に入置て、弱方の鳥には白餅米に黍にては如何可有哉、未其ためしは不致雛のうちは万端気お付ずしては、皆生立取事不協思ふ、先年長崎にて出島紅毛尾敷〈江〉行し所に、かびたんとんへるけと雲紅毛人に逢、孔雀之事委しく相尋候得共、紅毛国にて沢山致飛行、兼而大木の縁に泊り居下り、籾お拾ひ鰌の類お取よし、其節は尾羽もどうによごれ、飼鳥程に奇麗にも無くとの物語り聞し也、能く鳥の気お知り能く鳥お飼ものは、紅毛人にあるべし、鳥より気お見らるゝといふはなき事に候得共、孔雀、白鷴、九官、八々鳥の類、人にさゝわり候鳥、一生人に寄障ると不障と有、是も鳥より気お見らるゝ見られざるとのにつ也、和鳥之小鳥にも平生蜘にても飼、餌入の水にても取りかへ候人には、鳥も見覚、籠の内にても、其人の方へ寄るゆへ、数羽飼鳥のうちにも気に入鳥も、入らざる鳥も、心お配り飼置べし、誠にかごの内鳥と申ごとく、外頼みなきものにて、飼人心得肝要、よく〳〵思へば、かわいらしきものとおぼへし也、