[p.0997]
虫はむしと雲ふ、産の義にして、生化の多きより此名ありと雲へり、又古く、はふむしとも称したるは、虫類の多くは匍匐するものなればなり、而して後世の本草書には、虫類お、卵生、化生、湿生等に分ちたり、
上代には、虫害甚だ多かりしかば、大祓詞には昆虫(はふむし)の災と称して、是お国津罪の一に数へたり、又蝗害の事も既に神代に見えたり、
我国養蚕の事は、天照大神の始め給ふ所にして、古来国産の一として、最も重んぜらる、事は産業部養蚕篇に詳なり、
後世松虫、鈴虫、促織(はたおり)、蟀蟋(きり〳〵す)、等の鳴声お愛するもの漸く多く、聴虫、撰虫、放虫等の事、上下風流者の間に行はる、而して此等の昆虫お飼育する事も夙くより之れありしものヽ如し、
虫類中、蛇に関する事蹟最も繁多なは、是れ其害毒火しく、且つ其性も亦獰惡にして、一種の霊異お有するものと信ぜられたるに由るなり、