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東雅
二十/虫豸
虫むし 古事記に、太古の事おしるせし語に、うじたかるといふ事見えたり、万葉集抄に、むしとはむらがり繁しといふ詞なり、むとうとは同韻相通なれば、むしおうじといふは本韻なれば、本韻につきて、うじわくなどいへりと釈せり、後代に及びて、むしおば虫の字お用ひ、うじおば蛆〈の〉字お用ひぬれば、むしといひ、うじといふ、異なる者の如くにもなりたる也、〈古語にむといひしは、則産の義あり、高皇産霊神の名お、古事記には高御産巣日神としるせし如き即是也、むすといひ、むしといふ、そのすといひ、しといふは詞助也、虫お肱しといふは、たゞ其生ずるお雲ひしなるべし、うじといふは転語也、或説にむしとは蒸也、湿熱の気蒸而注ずる也といふ、古義にはあらじ、凡太古の俗、いひつきし所に、夫等の義お取べしとも思はれず、〉