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古今著聞集
二十/魚虫禽獣
嘉保二年八月十二日、殿上のおのこ共、嵯峨野にむかつて、むしお取て奉るべぎよし、みことのりありて、むらごの糸にてかけたる、虫の籠(○○○)お下されたりければ、貫首以下、みな左右馬寮の御馬にのりてむかひける、蔵人弁時範、馬のうへにて題お奉りけり、野径尋虫とぞ侍ける、野中にいたりて僮僕おちらして虫おばとらせけり、十余町計はおの〳〵馬よりおり、歩行せられけり、ゆふべにおよんで、むしおとりて、籠に入て、内裏へかへりまいり、萩女郎花などおぞ、籠にはかざりたりけり、中宮○藤原篤子の御方へまいらせてのち、殿上にて盃酌朗詠など有けり、歌は宮の御方にては講ぜられける、簾中よりもいだされたりける、やさしかりける事なり、