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源氏物語
三十八/鈴虫
秋比、にしのわた殿のまへのなかのへいの、東のきはお、おしなべて野につくらせ給へり、〈○中略〉この野に、むしどもはなたせ給ひて、風すこし凉しくなり行夕暮に、わたり給て、虫の声きゝ給ふやうにて、なお思はなれぬさまお聞えなやまし給へば、例の御こゝろはあるまじきことにこそあなれど、ひとへにむつかしきことに思聞え給へり、〈○中略〉虫の音いとしげうみだるゝゆふべかなとて、我もしのびてうちずし給、あみだの大ず、いとたうとくほの〴〵きこゆ、