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江戸名所図会
五の一
道灌山聴虫〈○図略〉
文月の末お最中にして、とりわき名にしあふ虫塚の辺お奇絶とす、詞人吟客こゝに来りて、終夜その清音お珍重す、中にも鐘児(まつむし)の音は勝て艶しく、莎鶏(はたおり)、紡績娘(きり〳〵す)のあはれなるに、金琵琶(すゝむし)の振捨がたく、思はず有明の夜お待ちたるも一興とやいはん、まくり手にすゞむしさがす浅茅かな其角