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嬉遊笑覧
十二/禽虫
秋の末に小瓶に土お入て、其内に鈴虫の雌お移し、綟子はりの蓋おおほひ、日なたに出し餌お飼、日お経れば衰へ死するお、其儘にして蓋おおほひ、稲草にて包、雨露のあたらぬ土お上に置、〈縁の下よし〉翌年五月の初ころ包みおとき、蓋上より日にあて置ば、やがて土中の卵かへりて、微細の虫数多生出て、日お重ねて大になる時、瓶の内狭き故、他の器に分ち置べし、虫小きうちは、瓶のふた紗の類お用ひてよし、そだつに随て籠に移すべし、紗などおば咋破るなり、餌は茄子お用、また細き葉の草に水お酒ぎて入置べし、茄子なくなる頃には、虫も死するなり、かくすれば年々絶ることなく、多く出来るものなり、松むしは此しかたにてはかへらず、帝京景物略に、促織秋尽則尽、今都人能種之留其鳴深冬、其法土于盆養之、虫生子土中、入冬以其土置煖〓、日永灑綿覆之、伏五六日、土蠕々動、又伏七八日、子出白如蛆、然置、子蔬菜、仍灑覆之、足翅成漸以黒、匝月則鳴、鳴細于秋、入春反僵也、これも大かたは似たる法ながら、水お灑ぎ煖むる故、ことなるべし、