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塵袋

一竜と蛇とは別の物と覚るに、蛇ののぼりて竜になると雲ふは、竜の始は蛇歟、又竜舌蛇の姿にて見ゆる事先従あり、〈○中略〉蛇の竜になることは転証の義歟、〈○中略〉竜は足羽あり、蛇は羽も足もなき物なれば、当時の相は不同、名も又別也、竜の蛇の形お顕すは、蛇は常に世間にあるものなれば、是に姿おかりて現ずる歟、〈○中略〉蛇竜は身の長くて物おまつふ能あるにや、蛇ののぼりて辰になると雲ふは、蛇の竜に成るまであるにこそ、竜門の魚は魚竜とこそはなるらめ、便宜皆可然覚る也、竜の吟ずる声え、馬の嘶に似たるなど申すは、馬竜(○○)の声歟、〈○中略〉帝釈ののり給ふ伊羅波大竜馬守て、鼻の長くして馬の如くなる竜あり、是などは、馬竜なるべし、蝦蟇竜(○○○)と雲ふは、かへるににたる竜には種々の形あり、は子なきもあり、あしなきもありと、外書には見えたり、〈○下略〉