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東遊記
後篇二
竜鱗(○○)
越後糸魚川の近在、黒姫山の麓姫川の岸に、水に臨みて大なる岩出たる所あり、先年姫川大洪水の時、水引て後、猟師彼岩の辺へ行しに、何とは知らず、白く滑なる脂のごとき物多く付居たり、又岩の角の所に、大なる鱗とみゆるもの五六枚付たり、其大さ五六寸づゝあり、何物か洪水に押出され来りて、此岩角に強くすれて、鱗落脂も残れるなるべし、誠此姫川は滝のごとくなる急流にて、大河なれば、其洪水の勢ひにはいかなるものも、押流さるべし、彼猟師其鱗お取帰り、今に所持せり、人皆竜の鱗といふ、