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古事記伝

八俣遠呂智(やまたおろち)〈八俣之と之お添へて訓むはわろし○中略〉八俣は、次に身一有八頭八尾と雲るこれなり、即書紀に頭尾各有八岐とあり、遠呂智は書紀に大蛇と書り、和名抄に、蛇和名倍美、一去、久知奈波、日本紀私記雲、乎呂知とあり、〈今俗に、小く尋常なるお久知奈波(くちなは)と雲ひやゝ大なるお幣毘(へび)と雲ひなほ大なるお宇婆婆美(うはばみ)と雲ひきはめて大なるお、蛇(ぢや)と雲なり、遠呂智とは俗に蛇と雲ふばかりなるおぞ雲けむ、〉名義、尾於杼呂智(おおどろち)にて、尾のおどろ〳〵しきお雲なるべし、於杼呂(おどろ)は棘(おどろ)、〈字鏡に薮は於止呂、〉驚などゝ同言なり、さてその於(お)は、遠(お)の韻にある故に省軋〈○註略〉又遠杼(おど)は遠(お)と切(つヾま)ればなり、そも〳〵此蛇は上なき霊剣お尾の中にしも含持れば、其威霊にて、余所よりも、尾は殊にいかめしくおどろ〳〵しかりけむ、故れ尾お以て名に負せしなるべし、智は例の称名なり、〈○中略〉蛟(みづち)などの知も同じ、