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十訓抄
十一
伶人助元府役解怠の事によりて、左近府の下倉に召籠らる、此下倉〈○古事談作地〓〉には、蛇蝎のすむなる物おと恐おなすところに、夜中ばかりに大蛇案の如く来れり、頭は祇園の獅子に似たり、眼はかなまりのごとくにて、三尺ばかりなる舌さし出て、大口おあきて、既にのまんとす、助元魂失ながら、わなゝく〳〵腰なる笛おぬき出、還城楽の破お吹、大蛇来りとゞまりて、頭お高くもたげて、しばらく笛お聞けしきにて、返り去にけり、