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古今著聞集
二十/魚虫禽獣
建保の比、北小路堀川辺の在家に女有けり、湯おわかして釜のまへに、火おたきて居たりけるに、三尺計成蛇来、其かまのまへなるねずみの穴へ入にけり、女おそろしく思ひて、いかゞせましと思たる所に、隣なる女〈○中略〉何かおそれ給ふ、いとやすくしたゝめてん、其湯のにえたるお穴のくちにくみ入たまへ、さらばあつさにたへずしてはひ出なんと雲、まことにとていふまゝ、にかへりたる湯お、穴の口にくみ入たりける程に、あんにたがはず蛇出て、びりびりとひろめきてやがて死ぬ、かしこくおしへてん、さんなれ共いかゞはせんとてすてゝげり、其次日の未の時計に、其湯くみ入よとおしへつる女、俄に病出て、あらあつや〳〵とおめきいりくるめく事おびたゞし、〈○中略〉やがてとりころしてげり、〈○中略〉
後堀川院御位の時、所下人末重、丹波国桑原の御厨供御備進のためにくだりける時、くだんのみくりやに山あり、〈○中略〉或山ぶしの有ける一人同道して行たりけるに、件の山にはやお(○○○)といふ蛇あり、長さ二丈あまり計也、かまくびおたてゝ、此二人の輩にかゝりて、大口おあきてのまんとしけり、〈○中略〉山ぶしはうち刀おぬきてむかふ、此時くちなはえよらでしゞかまりだりけり、〈○下略〉