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古今著聞集
二十/魚虫禽獣
渡辺に往年の堂あり、薬師堂とぞいふなる、源三左衛門かけるが先祖の氏寺也、つがふの馬の允が時、此堂お修理しけるに、もとこけらぶきにて有けるが、年久しくなりて、みな朽くさりて侍けるお、ふきかへんとて、うへお取やぶりて侍けるに、大なるくちなは有けり、何とかしたりけん、おほきなる釘に打付られて、年比はたらきもせで、かくてありける也、其時此堂建立の年記おかぞふれば、六十余年になりにけり、その間かく打つけられながら生て有ける、命ながさ、おそろしき事也、其蛇の有けるしたの裏板は、あぶらみがきなどおしたるやうにて、きらめきたりけり、〈○下略〉