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沙石集
七下
蛇害頓死事
下野の国或所の路の傍に大なる木のうつおより大蛇の頭おさし出たるお見て、或る俗人何にお見るぞ、にくきものかなとて、矢おぬきいだして、頸おつよく木にいつけて、うちすてヽ行程に、大きなる沼のほとりお打めぐりてすぎけるに、水の上におよぐ者有、見れば大蛇の一丈ばかりなるが、頸に矢たちて、水の上おおよぎて来る、又まちうけていころしつ、さて家へ帰りはてず、やがてやみくるひ、種々の事どもいひて、狂死に死にけり、