[p.1049][p.1050]
古今著聞集
二十/魚虫禽獣
摂津国ふきやと雲所に、下女ありけり、夏昼ねしたりけるに、家のたる木に、大成くちなはまとひ付てありけり、此女のうへにて尾おばたる木にまとひて、かしちおさげて、落かゝらんとしけるが、又ひきかへし〳〵する事、たび〳〵になりにけり、女が夫ふしぎのやうかなとおもひて、事のやうお見はてんと思ひて、追ものけずして、かくれよりのぞき居たり、かくたび〳〵しけれ共、いかにもおちかゝらざりければあやしくて、女およりてみれば、かたびらのむねに大なる針おさしたりけるが、きら〳〵として見へけり、もしこれにおそるゝかと思て針おぬきて、又もとの所にてみるに、やがてくちなは落かゝりにけり、其ときよりて、打はなちつ、すなはち女おどろきて語りけるは、夢にもいらず、うつゝにもあらで、うつくしきおとこの来て、われおけさうじつるお、なんぢきて追さまだげつるなりとぞいひける、