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傍廂
後篇
いもり やもり とかげ
和名抄に、蝘蜓、一名蜥易、一名蠑蚖、本草雲、竜子、一名守宮、〈和名止加介〉蘇敬注雲、常在屋壁、故名守宮也とありて、いもり、やもりも、ひとつに挙げられたり、これおわけていへば、蝘蜓はいもりにて、守宮はやもりにて、竜子はとかげなるべし、水中に在りて、堰埭の水お守る義にて、いもりといひ、家の籬壁の間に居るお、屋お守る義にて守宮といひ、草のかげ、石垣の間などに居るお、処蔭といふなるべし、今世男女の中の事につきて、水中のいもりお黒焼に製するよしいへるは、拠たがへるなるべし、陶弘景雲、蝘蜓喜縁籬壁間、以朱飼之、満三斤、殺乾末塗女人身、有交接事便脱、不爾如赤誌、故名守宮、三虫ともに毒虫にて似よりたるものながら、とかげは美麗に見えて、やもりはきたなげに見ゆるものなり、いもりは小魚と同じさまに、小児もとらへて、小器の水中に飼ひ置く事あり、女の身にぬるは、今のやもりなるべし、