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袖中抄

井もりのしるし(○○○○○○○)
ぬぐくつのかさなることのかさなればいもりのしるし今はあらじな
顕昭雲、法華玄賛六雲、守宮以血塗女人臂、必有私情、洗之不落、可以守宮雲々、 嘉祥法花義疏雲、守宮者、嫉妬譬也、古人取此虫安置箱内、以朱飲之令赤、若王行不在、刺取血題内 人臂、有私情者、血流入皮肉、可以守宮人、故以名之、博物志雲、以器養之、食以朱沙、体尽赤、重七斤、搗 万杵、以点女人体、終身不滅、婬則点滅、故雲守宮、漢武試之、有験也、
今付之、案之、内伝には、婬すれば、うせずといひ、外典には婬すればうすといへり、すでに大に相 違歟、但嘉祥疏に婬すれば血流入皮肉といへる文にて、心えあはするに、内伝には皮肉にしづ みいればうせずと雲ひ、外典には底にしづみてはだへのうへに見えねば、うすといへるか、
無名抄雲、井もりといふ虫は、ふるき井などに、とかげににて尾ながき虫の、手足つきたる也、 これはもろこしの事なめり、援には虫はあれどするやうおしらねば、つくる事なし、とおき 所などへまかい時にかひなにつけつれば、あらひのごひなどすれど、おつる事なし、たゞお とこのあたりに、よるおりにおつるなめり
忘るなよたぶさにつけし虫の色のあせなば人にいかにこたへむ、返し
あせぬとも我ぬりかへむもろこしのいもりもまもるかぎりこそあれ、
ぬぐくつのかさなることのかさなればとよめるは、めのみそかごとするおりに、はきたる くつの、おのづからかさなりて、ぬぎおかるゝなり、さてかくはよめる也、〈○中略〉
私雲、井もりお守宮といふ様お、釈すれば、帝皇のあるき給とき、宮人の臂にぬるが故に、宮おまもるといへり、然ばたゞの人はいかゞすらん、