[p.1075]
今昔物語
二十四
安倍晴明随忠行習道語第十六
今昔、天文博士安倍晴明と雲陰陽師有けり、〈○中略〉広沢の完朝僧正と申ける人の御房に参り、物申し承はりける間、若き君達僧共有て、晴明に物語などして雲く、其識神お仕ひ給ふなるは、忽に人おば殺し給ふらむやと、晴明道の大事お此く現にも問ひ給ふかなと雲て、安くは否不殺、少しかたに入て様へば必ず殺してむ、虫などおば塵許の事せむに必ず殺しつべきにて、生く様お不知ば罪お得ぬべければ由無き也など雲ふ程に、庭より蝦蟇の五つ六つ許踊りつヽ、池の辺様に行けるお、君達、而れば彼一つ殺し給へ、試むと雲ければ、晴明、罪造り給ふ君かな、而るにても試み給はむと有ればとて、草の葉お摘切て物お読様にして、蝦蟇の方へ投遣たりければ、其の草の葉蝦蟇の上に懸ると見ける程に、蝦蟇は真平に て死たりける、僧共是お見て色お失てなむ恐ぢ怖れける、