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四季物語

石山に詣でぬ、かへさには、蛍いくそばく、薄衣の器に包み入れて、宮の内に奉れば、ここらの御簾、或は御局のそこらに、数多放されて、晴るゝ夜の星とものせしも、いひしらず思ひたどりぬ、されどこの虫も夜こそあれ、昼は色異様に夜の光にはけおされて、劣れる虫也、まいて手に触れ身に添へては、惡しき香うつり来ぬ、手には蘭お握り、身には百寿の香お塗る、若人君の前にては、心あるべき虫の香ならし、