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骨董集
上編上
駒形の蛍
江戸雀〈延宝五年印本〉十之巻浅草駒形堂の条に雲、〈○中略〉船つきにして、出船入船のありさまは、遠浦の帰帆とや申さん、九夏三伏のあつき比は、風すゞやかに吹おとし、とびかふ蛍水にうつり、勝景かぎりなき所なりとあり、絵お見るに堂のかたはらに、樹木ある体おかけり、又江戸名所記〈完文二年板〉の駒形堂の図お見るに、木立保(くさむら)などありて、蛍もおるべき体也、
焦尾琴(元禄十四年板)こまがたに舟およせて、 此碑では江お哀まぬ蛍哉 其角
かくいへるも、眼前の体なるべし、今は所せきまで人家立つゞきて、蛍に化すべき草だになし、〈○下略〉