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重修本草綱目啓蒙
二十七/卵生虫
蚕 かひこ(○○○)〈和名抄〉 かふこ(○○○)〈古歌〉 おこ(○○)〈東国〉 うすま(○○○)〈越後〉 ぼこ(○○)〈同上〉とヽこ(○○○)〈羽州〉 ひめこ(○○○)〈房州〉 とうどこ(○○○○)〈津軽大者〉 きんこ(○○○)〈同上小者〉 一名竜精〈事物紺珠〉 錦娘子 女児〓母〈共同上〉 馬頭娘〈名物法言〉 䗸〈正字通○中略〉
三月清明〈節〉の後、桑初て出るの時、蚕連紙(た子がみ)の上に、細かく切たる嫩桑葉お以て糝し置けば、已に卵お出たる蚕児、桑葉に上り附くお、鳥の翎お用て、葉と共に払ひ落す、其出ること早晩斉しからず、故に一番はき、二番はき、三番はきの称あり、大抵辰巳の時蛻し出づ、長さ僅一分許、康済譜にこれお蟻と雲ふ、時珍の謂ゆる䖢なり、その身は黒褐色、首は小くして、御米(けし)の如く、黒色にして光り、漆の如し、康済譜に初生黒色、三日後漸変白変青、復変白変黄、純黄則停食、謂之正眠、眠起自黄而白、自白而青、白青復白、自白而、黄、又一眠也毎眠例如此と雲、日お追ひ長ずるに随て、色変ずるなり、五日になれば長さ二分余になり、葉お食はず眠る状の如し、これお眠と雲、飛州にてつぼむと雲、是第一眠なり、一名正眠、〈康済譜〉江州にて一度井と雲、上州にてしヾと雲、康済譜に北蚕多是三眠、南蚕倶是四眠と雲、本邦も皆四眠なり、凡そ一眠一起の間十二時なり、故に今日午前より眠するものは、明日午時より、くびすじの処裂破れて、漸く旧皮お蛻出づ、是おきぬおぬぐと雲、已に出れば、半身以上は立ちて、半身以下は葉に附著して暫く動かず、これお起と雲、是一起なり、飛州にてひとおきと雲ふ、此時長さ三分許、九日に至りて長さ四分許になり眠起初の如し、是第二眠なり、江州にてはに度井と雲、上州にてたけと雲、第二起お飛州にてふたおきと雲、此時長さ四分余、十四日に至りて、長さ七分余になり、眠起す、是第三眠なり、江州にてひないと雲、又ふないと雲、上州にてふなと雲、第三起お飛州にて、みおきと雲、此時長さ八分許、十九日に至りて、長さ一寸二三分になり、色白く微黄にして光あり、眠起す、是第四眠なり、是お大眠と雲ひ、停眠と雲、倶に康済譜に出づ、江州にてにわいと雲、上州も同じ、第四翹お飛州にて、にわおきと雲、此時長さ一寸四、分許、白色微黄褐、身に九段あり、第一段は長くして、上に両眉の形あり、色黒し、下に左右各三足あり、三段の上前によりて○の形あり、深黒色二重なり、五六七八段の下段ごとに、左右各一足あり、九段の上には、肉刺一ありて、〓蜀(いもむし)刺の如し、尾下は両より葉お挟で足の如し、二十七日に至りて、長二寸に分許、闊三分許、全身白色にして光あり、喉下及尾上透徹し、漸くひろがり、全身透徹して黄色となる、是お南部にて、ひきると雲、是より漸く老て、形小くなれば、隻仰で上に向ふ、此時採て簇中に入る、康済譜に、候十蚕九考方可入簇と雲、簇は器中に枝叉ある木柴お束ねたるお入置き、上に稲草お覆ふこの雲ふ、蚕おこの中に入れば、便ち糸お吐き、枝叉に掛て繭お造る、これお飛州にてすがくと雲、〈○中略〉
繭まゆ〈○中略〉 凡繭三日許、日乾して後糸にひき、綿に造る、これ中の蛹(ひいる)お殺すためなり、然らざれば繭お破り、羽化して出れば、その繭糸にならず、故にこの繭お綿に製す、これお空蚕繭〈医学彙函〉と雲、〈○中略〉
繭中に居るものは足なくして両目あり、〓蜟(にしやどち)の形の如くにして赤褐色なり、これお蛹(○)と雲、俗名ひる、〈野州、信州、奥州、〉ひいる(○○○) ひゆり(○○○)〈江州○中略〉
称子とする繭は、器中に入れ、上に藜葉(あかざ)お蓋ひ置く時は、日お経ずして、蛹羽化して、繭の一方お破り穿ちて出づ、これお蚕蛾(○○)と雲、かひこの蝶なり、〈○中略〉
蚕蛾の形は、䗳蛾(ひとりむし)に似て、浅褐色、雄は体痩小にして紙上に飛走す、雌は体肥大にして、紙上に伏して動かず、天工開物に、凡蛹変蚕蛾、旬日破繭而出、雌雄均等、雌者伏而不動、雄者両翅飛撲、遇雌即交、交一日半日方解、解脱之後、雄者中枯而死、雌者即時生卵、承藉卵生者、或紙或布、随方所用、一蛾計生卵二百余粒、自然粘于紙上、粒粒均鋪、天然無一堆積、蚕主収貯以待来年と雲、此紙お蚕連と雲、俗名たねがみ、