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嬉遊笑覧
十二/禽虫
蟻の熊野参り(○○○○○○)、長嘯子、虫の歌合なさけなき君が心はみつの山くまのまいりおして祈らまし、そのかみ熊野に人多く参りしかば、かゝることわざあり、古きことゝ見えて、家長日記、元久三年京極殿うせ給ひ、摂政殿夢のやうにて、上下北面の人々馬車にて、はせちがふさま、ありといふむしの、もの参りとかやするにこそよう似て侍りしか、是には唯もの参りとめれど、熊野参なるべし、〈○中略〉蟻はむれおなして、他のむれに入らず、僅ばかり隔てし処の蟻も、むれことなるおば、必くひ殺すものなり、戯に砂糖などの甘みある物お、紙などの上に載せ、蟻のとほる処に置ば、須臾の間に多く集る、それお取て、他所の蟻の群たる中に入るれば、くひあふに、主客のきほひことなれば、他より入る蟻は敗走す、かくして闘はしめざれども、もとより集りて戦ふものなり、〈○中略〉
蟻の塔(○○○)おくむ事、五雑俎、人有堀地得蟻城(○○)者、街市屋宇楼蝶門巷、井然有条、唐五行志、開成元年、京城有蟻聚、長五六十歩、闊五尺、至一丈、厚五寸至一尺、可謂異矣、蜂亦有之、おもふに蟻の塔、そのまゝにして置かば、次年も又蟻集るものならむ、