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大和本草
十四/虫
蜂蜜(○○) 本草お考るに石蜜(○○)あり、木蜜(○○)あり、士蜜(○○)あり、人家に養ふ家蜜(○○)あり、すべて四種也、日本にも亦此四種あり、石蜜は高山岩石の問に作之、其蜂、常の蜜蜂に異り、黒色にして似蝱(あぶ)、日本にも処々有之、木蜜は陶弘景曰、樹枝にかけて巣お作る、日本にも有之、人家に養ふも本是お取来る、又大木の空虚の内に房お作り、南方より小穴お開て出入す、穴大なれば、熊蜂入て、蜜蜂お喰殺し蜜お吸取る、山にある木蜜は木の空虚の内に房お作る者多し、枝にあるは希也、土蜜は山の崖などかはきたる土中に房お作る、是土蜜は日本にも希有之、人家に養ふは諸州処々に多し、木蜜、土蜜、人家に養ふ者、此三種は同蜂なり、常の蜂に似て小也、色微黄なり、常には人お不螫、人さはればさす、伊勢、紀州の熊野、尾張、土佐、其外諸国より出づ、土佐より出るお好品とす、何の国より出ても真蜜お為好、蜂房の内、処々に自したヽりたまるおとり用ゆ、是お真蜜とす、生蜜なり、上品とす、薬に可用、蜂房お煎じ棗して蜜とす、是は下品なり、薬に不用、煮熟せざる生蜜お用ひ、我家にて煉熟すべし、〈○中略〉蜜お煉る法(○○○○○)、先陶品に蜜お布にてこして入、其陶器お鍋に沸湯おわかして入重湯にて湯煎し、浮沫お箆(へら)にてすくひ去り、蜜お少水に滴てヽ、珠おなして不散お為度、壼に納貯ふべし、〈○中略〉 蜜蜂の蜜お作るは、春の末より秋の末まで、出て花お含み、花お翅と足の間に挟み、或花の汁お含み来り、房中にぬり付て、醸て蜜となす、酒お醸すが如し、凡蜜蜂は甚風寒お畏る、冬の初より不出、房中に蟄居す、其間は曾て醸して貯置たる蜜お粮とし食ふ、蜜は蜂の粮也、故に蜜お取るに、粮お残して取尽さず、取尽せばうへ死す、〈○中略〉 蜂房(○○)は蜂毎年改作る、家に養ふは蜂房おわりて、房中に白たまれる蜜おとる、是上品也、可為薬、然れども難多得、故に蜂房おわりて、三分一は残して為粮、三分二お取て、大器の上に竹おわたしならべ、其上にわり取たる蜂房お置て、天日に曝せば、蜜煖気にとけて、器中に滴りおつるお取る、是中品なり、蜂房お釜に入て、煮て蠟お取、其あとお煎じつめて蜜とす、是下品なり、不可入薬、故に生蜜お上品とし、熟蜜お下品とす、 蜜蠟(○○)は蜜お煎じて、面に浮ぶ査(かす)なり、黄蠟と雲、