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花月草紙

とりもちおもて、はへといふ虫おおほくとりたるお、ふとけみきやうとて、目もおよばぬものおみるめがねのあれば、それもてみしに、そのもちにつきたるはへが、にげんとして、羽お動かすが、はてはその羽ももちにつきて、うごきえず、かうべうごかして苦しむもあり、又久しくつきしは、飢にのぞみてよはり死するけしきもあり、たゞに羽おならす音のみきゝしが、よくみれば、いとかなしきさまなりしとかたるお、さあらんよなど、人のこたへしお、みしときゝしとは、いとたがふものぞかし、みしごとくきゝ給はゞ、さあらんなどゝ計はいひ給はじ、まいて目の及ばぬあたりのことは、猶心にてみ給へかしと、いひしものありけり、